雨の出会い

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「買えば」 安奈が山のような荷物を抱えながら言う。 「止めておく。 買っても一人で着るのは惨めだもの」 「あほやねぇ、みやげと言って渡せば良いのよ。 ペアだなんて言わなければ分からないやないの」 「そうか、そうよね、分からないわよね、 あゆみ、潤一郎さんにばらさんといてな」 そう言うと売り場の方に戻っていった。 (桃花の潤一郎への思いが叶うと良いのに) そう思いながら出国の時の潤一郎の言葉を思い出した。 (潤兄は私をからかったにちがいないわ) 一人言を呟く。 嬉しそうにパジャマを選んでいる桃花を見た。 そして、 (いつか私も、好きな人のためにあんなふうに、一生懸命贈り物を選ぶのだろうか?) そう思った。 街に明かりが灯る。 香港名物の点滅しないネオンが美しくなる頃、スターフェリー乗り場に着いた。 十分ほどフェリーに乗って九龍へ戻りレストランで食事だ。 「おなか空いたね」 二人とも見た目には細いがよく食べる。 「何か食べない?」 口癖のようによく尋ねる。 何かに夢中になると食事を忘れる事もある自分とは大違いだといつも思う。 「ねえねえ、すごくない? このフェリー。 日本円にしたら片道百円もしないのよ」 桃花はフェリーからの美しい景色よりフェリーの値段のほうが気に入った様子だ。 狭い海峡は川のように流れ対岸の明かりを映す。 水面を飾るその灯かりは行き交う船たちの作り出す波にゆらゆらとゆれていた。
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