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黙って頷く亜子に祐盛が付け加えた。
「その代わりと言っては何ですが、関所の前に旅芸人の一座がおりましたので今夜は船に呼んであります。
夕餉の後でゆっくり見物してください。
人形劇もありますよ。
言葉は解らずとも楽しめると思いますゆえ」
「人形劇ですって、姫さん」
美弥子が嬉しそうに亜子を見た。
「そないに楽しい物ですか?」
亜子はほとんど屋敷を出た事がなかった。
京の街では寺社や河原など見世物小屋や旅芸人の集まるとろが多くあって、連日見物人であふれかえっていたが、父はそれをあまり好まなかった。
薬草園には年に二、三度それらを招いて働く者たちを労う事はあっても、屋敷の者がそれを見に出向く事はなかった。
美弥子も薬草園にいた頃に見たきりだと言った。
祐盛が出て行った後、美弥子が旅芸人や人形劇の話をするのを、亜子も楽しげに聞いていた。
この旅で一番楽しい時間だった。
なによりも、楽しそうな美弥子の様子が嬉しかった。
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