25人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
祇園祭も終わり、京都の街も夏の盛りを迎えていた。
春に行けなかった卒業旅行を明日に控え、叔父が営む骨董店へと向かっている。
そこはあゆみにとって宝箱のような場所だった。
幼いころ両親はそれぞれに仕事を持ち忙しくあまり家にいなかった。
同居していた祖母が亡くなった後、近所に住む叔父夫婦が心配して、うちで預かろうと申し出てくれた。
二人には男の子が一人いたが、早くから外国に留学していて家には夫婦だけだっだ。
その事もあって、あゆみを実の娘のように可愛いがってくれた。
それでも最初は両親と離れてくらす不安のせいか、叔父の後を追って離れないものだから、高価な品々が並ぶ店の中が幼い彼女の遊び場となった。
美しく絵付けされた皿や壺、
キラキラ輝くガラスの器やグラスなどが置かれた棚の一番下があゆみのお気に入りの場所だった。
漆と貝殻で飾られた螺鈿の小引き出しを開けると、鼈甲のくしや珊瑚の簪と一緒にこの店には不似合いなアンティークの指輪や,ネックレスが入っていた。
そのひとつひとつを光に翳し眺めながら、あゆみの子供時代は過ぎていった。
中学を卒業するころに母が仕事をやめあゆみも生家に戻ったが、短大を卒業したこの春まで、放課後のほどんとをこの店で過ごすのが日課となった。
「おじちゃんいてはる?」
店に客はいなかった。
奥から従兄の潤一郎の声が返ってきた。
「なんや明日は旅行やろ、こんな日ぃまでここかいな」
笑いながら奥と店を仕切る暖簾を分けて顔をだした。
留学を終えて帰って来たのが三年前、今は美大の講師をしている。
「お父はんやったら商工会の集まりで出かけてはるで。
ま、もう戻って来はるやろけど。
そや、丁度ええわ、店番頼むわ。
ぼく、やりかけの仕事してしまいたいんや」
潤一郎が奥へ引き上げた後店の中を見回した。
子供のころから大好きだった螺鈿の小引き出しは、社会人になった祝いにと叔父から贈られ、今は生家の自分の部屋に飾られている。
そのため、中に入っていたアンティーク達は、元の場所にそのまま飾られていた。
ふと見るとその中に見慣れない指輪が置かれている。
思わず手に取った。
(なに?この指輪,初めて見るのに不思議な気分・・
懐かしいような、もの悲しいような)
しばらく見入っていると後ろに叔父の勝が笑顔で立っていた。
「もう見つけたんか?」
最初のコメントを投稿しよう!