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「お帰りなさい。
気ぃつかんかった」
あゆみは持っていた指輪を置いた。
「どうや、ええやろ、それ」
「うん、ええわあ。
けど・・」
不思議な気分の一言は飲み込んだ。
「なんや、気になる物言いやなぁ」
勝が笑いながらあゆみの顔を覗き込んだ。
心の中を見透かされたようで少し慌てた。
そして、訳の分からない『気分』を持て余している自分に気づき驚いた。
「だってアンティークはあまり売れてないやないの。
仕入れても店の飾りになるだけなんやない?」
言い訳をするように言った。
商売の事はよく分からないが、売れているのは陶器などのうつわが中心で、彼女のお気に入りのアンティーク達が売れていく事はあまりなかった。
「ええんや。
もともとあんたの為に仕入れてたんやし」
帳場の椅子に腰を下ろしながら勝が返した。
「うちの為?」
初めて聞いた。
「そうやがな。
あんたが店に来だした頃は泣き虫でなぁ。
いつだったか、持ち込みで品物を売りに来たお客はんがあってな。
その品物の中に指輪やら首飾りを見つけたあんたが、それをえらい気にいってしもて離さんもんやから・・
まぁ最初は安いもんやったし、一つや二つくらい思て買うたんや」
奥から勝にお茶をはこんで来た潤一郎がつづける。
「でもそのうち目えがこえてきたのか、だんだんに高いもんまでも離さん言うて、あの頃よう電話でこぼしてはったわ」
「えっ、ほんまに?」
今更ながらすまなそうに勝を見た。
「あの頃はほんまによう泣いて、こないなべっぴんになるとは思わなんだわ」
懐かしむようにあゆみを見た。
「おじちゃんたらなにもでぇへんよ」
胸が熱くなって涙がでそうになった。
「ええがな。
おかげで高い皿や壺が割れる事もなかったし。
なあ」
勝と潤一郎は目を合わせて笑った。
急に勝があゆみを見る。
思い出したように言葉を続けた。
「ああそやそれな、その指輪、実はいわく付なんや」
まるで悪戯っ子のように目をキラキラさせてあゆみを覗く。
「この前、蔵出しで舞鶴のお客はんの所に呼ばれた時にな、久しぶりに逢うた昔馴染みの仲買にそれの話を聞いたんやが・・
なんでも魚の腹から出てきたんやと」
「魚のおなか?」
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