あゆみ

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悪戯っぽく返した。 「知り合いの人から、何度売れてもお客さんが返しに来る言うもんを、叔父ちゃんが面白がって買うたみたい。 おばけが出たら教える約束で貰うたんよ」 安奈は出しかけた手を引いた。 興味はあってもおばけは苦手のようだ。 「今どきおばけは無いでしょうよ」 桃花が話に割って入った。 「それより早くあゆみの家へ行って忘れ物が無いかチェックしんと。 なにせ貧乏旅行なのに、見たいもんも、買いたいもんもいっぱいなんやから」 「それに桃花は、食べたいもんまでいっぱいやもんね」 安奈が付け加えた。 その夜は早くに床についたが、旅行への期待か三人共なかなか眠れなかった。 さっきからめざまし時計が鳴っている。 手を伸ばして時計を見た。 『六時三十分』 もう少しとつぶやいて慌てて起きた。 二人はまだ眠っている。 「起きて!もう六時半やで」 二人をゆり起こした。 ばたばたと身支度を整え化粧もそこそこに部屋を出た。 八時までに空港のカウンターへ行かねばならなかった。 バスにだって間に合うかわからない。 外へ出ると潤一郎が車の前で腕組みをしていた。 「やっぱりなぁ、こんな事だろうと思ったわ。 はよ乗りぃな。 バスじゃ間に合わん空港まで送ったろ」 三人は急いで車に乗り込んだ。 土曜日の朝のせいか高速道路は思ったより空いていた。 それでも第二ターミナルの前に着いたのは八時を少し廻っていた。 「潤兄おおきに」 車を降りかけたあゆみの手を潤一郎がつかんだ。 「あゆみ、その指輪な、お父はんが先に贈ってしもたけど、本当は僕が買うて君にあげるつもりやったんや」 (何?どういうこと?) 言葉に詰まって潤一郎を見た。 戸惑うあゆみを潤一郎が急かした。 「はよ行きや飛行機が行ってしまうで」 からかうように笑う潤一郎を残し、三人は夢に見た卒業旅行へとかけだした。
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