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母が突然再婚すると言い出したのは、高校卒業を控えたクリスマスの夜だった。
相手は香港に住む韓国系の中国人だと言う 。
両親が離婚したのはジュニが十歳になったばかりの頃だった。
幼な心に父は母を大切に思っていたが、母は父に冷たい気がした。
そのせいか父は外に女性をつくり、その女性に子供が生まれた事をきっかけに、母は彼を連れて婚家を出た。
何度も迎えに来た父に一度も顔を見せることなく、母は離婚を切り出し、他の物は要らないから、彼だけをと言ったそうだ。
父の相手の女性が産んだ子供が男だった事もあって、結局は母と暮らす事になったが、時々母に隠れて逢いに来た父は、どれだけ彼と母の事を愛しているかといつも繰返しては肩を落としながら帰っていった。
子供心に、そうした父が憐れで痛ましく感じたが、幼い彼にはどうする事もできなかった。
母の生家は裕福だったが、離婚した娘が子供を連れて戻って来るのを良く思っていなかったらしい。
母は繁華街のはずれにみやげ物や陶器を扱う小さな店を始め、その近くにアパートをかりた。
母子二人きりだがなに不自由なく幸せに育ったと思っていた。
母も自分さえいれば幸せなのだろうと思っていた。
離婚した後も尋ねて来る男性は父だけで、それも母は会うことさえしなかった。
それなのにいきなり、本当にいきなり、再婚すると言い出したのだ。
最初は反対し、再婚するなら一人で行くように言っては見たが、夜更けに一人涙する母を見て諦めた。
母も女性なのだ、一生母親だけでは悲しすぎる気がした。
ジュニの卒業を待って母と二人香港に来た。
大学の授業は英語だけのため、九月の入学まではびっしりと英語浸けの日々が続いた。
再婚で新しく父となった人はやさしい人だったが、二人でいてもあまり話す事もなかった。
友人も無く、母も父の世話で忙しかったが、あまり淋しいと感じる暇さえないほど毎日が遽しくすぎていった。
大学に入って間もなく、同じ韓国語を話す友人が二人できた。
二人とも祖父母の代に移民して来た香港生まれで、韓国へは二、三度親類の慶弔で行った事があるだけだと言い、今の韓国事情をあれこれ聞かせろと言ってはそれを理由に酒を飲まされた。
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