彼女の願いは

3/12
前へ
/12ページ
次へ
しかし、彼女にはあまり受けがよくない。帽子取ってよ、素のあなたが見たいとしばしば言われる。 一度、不意に背後からいきなり帽子を取られそうになったことがある。彼女としては、はしゃいだ気持ちの合間のちょっとしたいたずら心だったのだろうが、僕は思わず本気で怒ってしまった。彼女は一瞬凍りつき、小さくため息をつくように「ごめん。」と一言呟いた。 それ以来、彼女自ら帽子に手をかけることはなくなり、僕の帽子に対してほんのたまに「取ってほしいなあ。」と明るくふざけるように言ってくる程度になった。何も言われないのも寂しいので、僕にとってはちょうどいい。 でもどうしてそんなに気になるのか、僕にはわからない。みんなに見せない僕を私だけは見たいってことかな?なんて一人にやけたりする。さっぱりとまっすぐな性格の彼女の、女の子らしさを垣間見るようでいい気分になるが、あまりに取ってと迫られるとかえって取りにくい。何より髪型がぺちゃんこになっているから嫌だ。彼女のためにもカッコいい男でありたい。披露の瞬間を引き延ばすのを楽しんでいる節もある。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加