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また泣きそうになった。どうも年を取ると涙腺がゆるくなるってのはホントのようだ。まだ三十代だが、おれの涙腺の老化は速い。
わかったわ。
美智子は立ちあがり、子どもたちを促す。顔を背けているのは、きっと彼女も涙ぐんでいるのだろう。一度鼻をすすった後、元気に吠えた。
「そうと決まったらいくわよ!」
わーい、とはしゃぐダイチが振り向いた。
「タケシもいくよ」
だが、タケシは自分の立場を知っている。喫茶店には入れないのだ。ダイチの側を離れおれの膝に乗ってきた。どうぞ三人で、というように、ニヤーと鳴いてしきりに顔を擦りだす。
優子が察した。
「ダイチくん。タケシはお腹がいっぱいみたいだね」
しぶしぶダイチがうなずいた。
せっかくだからおれもよばれようと、わずかに腰を浮かせた。すると、タケシが小さくジャンプしておれを座らせる。
幸太郎はおれと留守番だ。
子どもたちの邪魔をするなよ。
そういいたげに、ニヤーとまた鳴く。
仕方なくおれはいった。
「そういえば、おれも食べたばかりだった」
おれの強がりを無視して、四人は楽しそうに店に向かう。そしておれはタケシの背中を撫でながら、つぶやいた。
「やせ我慢こそが、おれたちの美学だ。なあ、タケシ」
そうだ、というように、タケシは低いうなり声をあげた。
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