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「加治木のおっさんからだ。ちょっと待っててくれ」
瑠美にことわり通話ボタンを押した。いつものがなり声が飛んでくる。何で刑事って、みんな声がでかいんだろう。
『おう、幸太郎か。さっき頼まれたことだがな、今いいか』
おれは大丈夫だ、と応え瑠美にも聞かせるため、通話をスピーカーに切り替えた。
『きさらぎってヤツだけど、まだ盃をもらっちゃいねえな。今は石本の下に着いて小銭を稼いでるみてえだ』
盃をもらってないなら、正式な組員じゃない。ヤクザも昔と違って暴力よりも金力がものをいう時代だ。兄貴分に金を納めていれば、いずれショウも立派なヨゴレになるだろう。
「そうか、それできさらぎに前は?」
前とは前科のこと。
『いや、特になかったな』
そうなのか。まだショウは表向きは綺麗なようだ。おそらく今まで、暴力には無縁でもコマシ専門で生きて来たのだろう。それでもショウの被害に会った女の数は、両手両足でも足らないはず。おれの勘が騒いでる。『ヤツは犯罪者だ!』。急がねば。
黙りこんでいると、驚くことに気づかう声が聞こえて来た。
『幸太郎よ、また危ないことに首を突っ込んでるみたいだがな、深入りするなよ。ヤバイと思ったらすぐに連絡しろ。おれが一切合切さらってやるからな』
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