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うかつにもホロッときた。
安月給で、万年ヒラで、年中毛織の安いスーツを着てる冴えないおっさんでも、信用出来る刑事って居るんだよ。それだけで勇気をもらえる。
「ありがとな、気をつけ……」
──るよ、っていいかけた時、加治木が話した名前に引っかかった。
──イシモト?
どこかで聞いた名だ。
イシモト、イシモト──
どこだっけ……?
また、加治木が心配そうに口を開いた瞬間、電気が走った。
ヤツだ!
あんぱん女を助けた時、たまたま逃げ込んだ喫茶ベンツに追いかけて来たネックレス野郎だ。確かあんぱん女がそういった。
──だったらおかしな話になる。
あのあんぱん女は、石本がやってる風俗店の従業員のはず。
だけど、石本を兄貴分だと慕うショウのマンションから、あんぱん女が出てきた。とても夫婦には見えないが、男女の関係はあるようだ。
ヤクザ社会にも不文律はある。
そのひとつが「バシタトルナ」だ。
バシタとは、稼業仲間の妻や愛人を指す。「バシタトルナ」とは、他人の妻や愛人を寝盗るな──というわけだ。
ましてや、あんぱん女は石本にとっては大事な商品のはず。
ヤクザの掟も、石本が面倒みている女だということも、ショウが知らないはずはない。
おれのいつもの悪い癖。
好奇心が入道雲のように、もくもくと湧いてきた。
何かあるな──
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