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目の前にはあきれかえる瑠美が腕を組んでおれを見つめていた。それもため息のおまけ付きだ。
「一体、なにをするつもりなの?」
誰かの笑顔を見るのが楽しいのは当たり前だけど、人をはめて悔しがる顔を見るのも楽しいんだよな。
おれにはすでに、ショウと石本の苦虫を噛み潰す顔が浮かんでいる。
俄然やる気が湧いてきた。
「獲物を釣り上げるには、エサがいるだろう」
瑠美のあきれ顔がパワーを増す。
「あなたがそのエサになるつもりなのね」
にかっとおれは歯を見せる。
「いい仕事するんだよな、このエサがまた」
ダメだこりゃ、みたいに瑠美が首を横に振る。ため息まじりに立ちあがり出口へと向かう。そして振り返りひと言。
「エサになるのもいいけど、食べられっぱなしにならないでよ。ちゃんと如月の報告してよね」
やっぱりおれが心配なんだな。おれは親指を立てて、無事に戻るから、といった。すると余分なふた言目が瑠美から飛んでくる。
「そういえば、さっき子どもたちの声がしてたけど」
「ああ、優子たちが来てるからね」
「あらそうなの。探偵稼業じゃ食べられないから、てっきり学童保育にくら替えしたのかと思ったわ」
おれがあんぐりしたのはいうまでもない。美人で巨乳で頭脳明晰。口の悪さが無ければいい女なのに──。
そう思っても、やっぱり許しちゃう、おれ。
そしてマサミから連絡があった。
明日十時に学校で、教頭を始めとする職員、そしてダイチをいじめている子どもの親たちと面談することになった。
いや、面談じゃない。
二度とダイチに手を出さないように、先生も親もギャフンといわせてやる。
これは仕事を越えた、おれの戦いだ。
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