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  「まだ、お時間には早いようですので、おそれいりますが、こちらでお待ち願いますか」  やっぱりおれが怖いのだろう。わずかに声が震えていた。おう、とおれは低い声で返す。ロボットのような動きを残し、事務員さんはあわてて退出した。  会議室だけあって、長テーブルがコの字形に置かれていて、ひとテーブルにパイプ椅子が三脚づつセットされている。  おれは迷わず上座、つまり窓際の列のど真ん中に座った。この場所を取るために早く来たのだ。  おそらくここには、教頭や役職のある学校職員が座り、左右におれと子どもたちの親が座る予定のはずだ。  だが、ここで窓を背にして座り、薄いサングラスをかけていれば、おれの表情を探るのは難しいだろう。逆にこの位置からだと、全員のわずかな表情の変化も見て取れる。なにごとも先手必勝だ。  さっきの事務員さんも、今ごろは教頭たちに、「怪しい男ですよ」、と報告しているだろう。  よし、準備完了。  あとは待つだけだ。  時計は九時四十分をさしていた。  
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