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   普通なら叔父だと答えるべきだろうが、あえておじさんだといった。予定どおりいい間違いだと受けとったようだ。  今宮教頭が、「吉原くんの叔父さんですね」とみんなに聞こえるようにいった。  嘘はいってないよ。ダイチもナナミも最初は、おれのことをおじさんだといってたからね。今は、呼びすてだけど。  後々、揚げ足を取られないために、なるべく嘘は控えた方がいい。だから本名を伝えた。  また教頭が聞いてくる。 「愛田さんは、どのようなお仕事をされているのですか?」  おれはここで、ようやく帽子を脱いだ。普段はボサボサ頭だが、今日はヘアクリームできれいに寝かせつけ、オールバックにしてきた。やんちゃな服装にサングラス。おまけにテカテカ頭だ。教頭を始め全員が少しひいた。部屋の空気がどんどん重たくなる。  ストレッチのように、首を上下左右に動かしながら答えた。 「おれか。まあ、自営業みたいなものだな」  これも嘘じゃない。おれは一人でやってるからね。おれの見た目と言葉で、勝手に職業は想像すればいい。八百屋なのか、魚屋なのか。はたまた暴力団なのか。それがおれの狙いなんだから。  また教頭が聞いてきた。 「ところで、本日はどのようなご用件でしょうか?」  タヌキだなこいつは。用件ははなっからわかってるくせに、わざわざ確かめにくるあたりは。おれに喋らせて穴を探そうという魂胆だろうが、そうはいかない。最後はこいつら全員を置き去りにして、堂々とこの部屋から出ていってやる。  
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