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主導権を握るために、おれから問題を振った。仲良しクラブじゃないんだから、だらだら話す必要もない。とにかく短時間勝負だ。
「じゃあ始めるぜ。うちのダイチがイジメにあってるらしいんだけど、そのことをみなさん、知ってるかい?」
おれは正面の扉からゆっくりと教頭に顔を向けた。教頭は二、三秒おれを見つめた後、おもむろにファイルに目を落とす。話しだしは静かだった。
「吉原くんの保護者様から、そういうご連絡をいただきましたが、わたくしの方ではそのような報告は受けておりませんが」
お決まりの言い訳だな。たとえイジメがあったとしても認めたくないのだろう。まあいい。おれは次にふった。
「そうかい。教頭先生には届いてないのか。それじゃあ担任の村田先生なら知ってんだろう?」
主任を通りこして来た指名に村田は、ビクッと肩を震わせた。何が書いてあるのか知らないが、あわててファイルをめくりだす。パニック女はしどろもどろで話しだした。
「いえ、あのー、ちょっと待ってください。吉原大知くんのことですよね。えーと、えーと……」
よしよし、狼狽えてるな。もっと追いこんでぼろを出させよう。ところが教頭が挟んできた。
村田先生!──と語気を飛ばす。
呼ばれた村田は、さっきより肩を跳ねあげた。恐る恐る教頭を覗きこむ。すでに、泣き出しそうな顔だ。
さらに押えつけるように教頭がいった。
「村田先生。落ち着いて報告してください。そもそもわたしのところには、そんな事実はあがってきてないんですからね」
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