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   おれはこの時、教頭に違和感を覚えた。普通、イジメにあっていると保護者から聞かされたら、驚いて低姿勢で対応するはずなのに、今日も暑いですね、とでもいうような日常の態度だ。  まさか──  ある疑惑が浮かんだ。  ようやく村田が回答した。相変わらず視線はファイルに落としたままだ。 「よ、吉原くんは中川くんを始め、山口くん、池永くんたちとは仲良くしていて、特に問題が発生しているとは思えません。以上です」  なにが以上です、だ。ふざけやがって。てめえが見ていないだけだろうが。  おれはこみ上げる怒りを必死に押えこんだ。まだ爆発するには早い。 「ほお、そうかい。問題はないんだな」  村田はうつむいたまま、そうです、と答えた。  だったら、その自信なさげな態度はなんだよ? 問題が無ければ、もっとき然とできるだろう。  隣の熊野は腕組みしてふんぞりかえってる。筋肉バカのこいつは無視だ。  奥歯を噛み締めながら、次にふった。 「学年主任の竹内先生も、同じ意見かい?」  当てられて竹内の額から、一気に汗が流れ出した。おまえは滝人間か。こいつもおれと目を合わさない。床に話しだした。 「はい。現在二年生において、大きな問題はなく。おっしゃってるようなイジメは当然、認知しておりません」  やっぱりどいつもこいつも、判でおしたような回答だ。教頭は腕を組んで天井を見つめていた。まるで、おまえの話は根も葉もない嘘だ、とでもいいたげだ。気にくわない。まあいいだろう。全部さらしてやるからな。  次におれは保護者に話をふった。  
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