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「お母さん方も、同じ意見なのかい?」
中川はキッとおれを睨みつけた。やっかいなおばはんだ。口に泡をふきそうな勢いで話し出す。
「当然でしょ。うちの子がイジメをするなんてあり得ません。そんな野蛮な子どもに育てた覚えはありません。そうですよね山口さん」
中川は隣の山口に同意を求めるように、気持ちの悪い笑顔を向けた。中川には逆らえないのだろう、山口は振られて急に動きだした。
「当然ですよ、中川さん。浩二くんもうちの子どもイジメをしているなんて、絶対にあり得ませんよ。イジメだなんて、おー恐い、恐い」
そういって山口は自分の身体を抱きしめた。おまえはどこぞの劇団員か。くさい芝居をしやがって。らちが明かない。
おれはその隣の池永に目をやった。
彼女だけは眉間にしわを寄せ、口びるを噛み締めていた。この場においてただ一人だけ、違った雰囲気を出している。もしかしたら思い当たる節があるのかも知れない。おれが池永さん──といおうとすると、中川がさえぎった。
「さきほど愛田さんは、うちの浩二が一番吉原くんを可愛がっているとおっしゃいましたでしょ。なのにイジメてるだなんて、話に矛盾がありますよね。
それに吉原くんが何をいわれたのかは知りませんが、鵜呑みにされてもねぇ」
そのいいかたにカチンときた。すかさず聞き返す。
「どういう意味だい?」
「どういう意味って……」
勝ち誇ったような笑顔を浮かべ、中川は爆弾を落とした。
最低最悪のパフォーマンスを、中川は見せたのだ。
「吉原くんにはちょっと問題があるでしょ。ここに」
いって中川は、ひとさし指で自分のこめかみをトントンと指した。
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