《探偵物語-Ⅲ》愛が叫んでる

Ⅹ

　
　彼らを見ると、互いに顔を見合わせ首をかしげている。まだ分かっちゃいないようだ。だったら、たたみかけよう。

「ひとつ例をあげようか。女性タレントで、あびる何とかって居ただろう。最近は見ないけど、何故だが知ってるか？」

　またまた無言の行列だ。

「彼女はある深夜番組で、過去に集団万引を繰り返し、店を閉店に追いこんだと発言したんだよ。それで芸能界を干され、その番組も打ち切りとなった。
　幼少期の駄菓子屋での万引体験を、ウケ狙いで誇張したようだけど、ネット上では未だに、あびるを検索すると『万引』と出てくるんだよ。昔と違い、今は発言は一生残ってしまう」

　少しはネットの恐さがわかったのか、考える顔になった。ただ一人を除いては。熊野がまたバカな発言をした。

「それは芸能界だからでしょ。ぼくたちみたいな一般人なら、そこまでひどいことはされないでしょ」

　そして、ハハハと自虐的に笑った。仕方ない、身近な話をぶつけてやろう。これを聞いてまだ笑えるようなら、入院した方がいいぜ。

「残念だが、一般人でも同じ目にあってる人間も居るんだよ。まだ覚えてるだろう。青森の浪岡(なみおか)中学の二年の女子が、イジメが原因で列車に飛びこんで自殺をしたのを。
　一度彼女のお祭りの写真が表彰されたけど取り消され、世論に負けてまた表彰された、あの事件だよ」