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   突然、池永が声をあげた。両手で顔を覆い、涙混じりでわめき始めた。 「うわー、ごめんなさい。許してください。お願いします、息子は今、一生懸命に野球にうちこんでいます。息子から野球を取り上げないでください!」  初めのころの中川と山口なら、池永の泣きを責めたろう。謝るということは、我が子がイジメたことを認めることになるからだ。しかし二人は黙っている。無言の了解だ。  保護者たちにはこのへんでいいだろう。おれは青ざめる教頭にいった。 「教頭先生よ、ひとつ聞きたいんだが、いいかな」  保護者の泣きが入った今、おれに逆らえる人間は一人も居ない。教頭は、また何かいわれるんだろうか、と戦々恐々だ。小さな声が返ってきた。 「何ですか? まだ何かあるんですか?」  おれは教頭を油断させるために、一度へらっと笑った。 「いやいや、大したことじゃないんだよ」  多少安心したようだ。体がおれに向いて少し声が大きくなった。 「何でしょうか」 「簡単な質問なんだよ。もしも仲のいい友達から裸にされて水をぶっかけられ、マジックで顔に落書きされたら……。あんたならどうよ。我慢出来るのかな、って思ってな」  それは即答だった。 「そんな酷いことをされて、我慢出来るわけないでしょ」  引っ掛かったな!  これがとどめだ! 「その酷いことをダイチは、中川、山口、池永の三人にされたんだよ!」  
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