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 ──吉原くんにはかわいそうですが、多少障害があります。ですから、吉原くんの話を全面的に信用するのは難しいですね。  それに、中川くんたちが同級生をイジメるなんてあり得ないでしょう……ねえ、お母様方。  良からぬ男が来ているみたいですが、どうせ金銭目当てで乗り込んで来てるんですよ。吉原くんは母子家庭ですからね。  わたしに任せてください。うまく追い払いますから。  いいですか。本校にいじめは存在していません──  多分、こんな話だったと思う。保護者や児童を守るといいながら、その実、自分自身の保身しか考えていなかったはず。都合の悪いことは明らかにしたくなかったのだろう。  どうせ教頭は認めやしないだろうけど……。  教頭は静かに立ち上がる。スリーピースの乱れを整えると、ゆっくりと頭を下げた。  他の三人の教師も高速で立ちあがり、おなじように頭を下げる。 「愛田さん、お話はよくわかりました。当校としましては、いじめの有無を早急に調査し、適正に対処いたします。  大切なのは、児童の人権と未来です。保護者様の期待を裏切らないように、最善の努力をいたします。  本日は貴重なお時間をいただき、感謝します。ありがとうございました。  これから調整会議を行います。その結果は吉原くんの保護者様にお伝えしますが、それで宜しいでしょうか」  
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