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   おれは来た時と同じように、スリッパの音を立てて五メートルほど廊下を歩いた。  すぐにスリッパを脱いで、忍び足で会議室に戻り聞き耳を立てた。  コホン、と教頭の咳ばらいが聞こえた。そして、続けて話し出す。 「えー。今の愛田さんのお話は身に染みる思いです。しかし、吉原くんへのいじめの有無を、学校としては確認しておりません。  ですが、不幸な出来事が起きる前に、対応は必要だと思っております。それは全校生徒に対してです。  それではみなさんから忌憚のないご意見を伺いたいと思います。まずは竹内先生からお願いします」  はい、という返事の後、生えぎわ後退主任が話し出した。先ほどと違って声に張りがある。  これなら大丈夫だろう──。  おれは閉まっている事務室に頭を下げて、玄関を出た。  いじめ問題を解決するには、学校や親にプレッシャーを与えることが有効だと思う。  盗聴器を仕掛けて証拠をつかむのも、ひとつの手段だが、おれは人間関係のパワーバランスを考え、いじめによる恐怖の副作用を植えつけることにした。  今日は、ちょっとダーティな手段だったかも知れない。だけど、いろんな手法で依頼人の期待を果たすのも、また探偵なのだ。  
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