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今年の夏ときたら、異常な暑さだ。お年寄りはバタバタ倒れていくし、子どもたちは熱中症を恐がって、部屋でゲームざんまい。喜んでいるのは海の家と、かき氷屋くらいかもね。
今日は仕事がない。いや、今日も仕事はない。せっかくだから体力を養うため食事ときめこんだ。松阪牛のぶあついステーキだよ。おれにしては豪華だろう。
いただきます、と口に放り込む寸前、名前を呼ばれた。
いったい誰だよ?
ちょっと待ってくれよ!
「起きて。起きてよ。起きてったら……。
起きろ! コータロー!!」
最初は優しかった声が、最後は叫び声になり、しまいには蹴飛ばされた。
肉汁あふれる松阪牛は夢だった。やっぱりな。せめて夢でも、食べてから起こしてほしかったよ。
「わかった、わかった。起きるから」
おれを起こしたのは、一人娘の優子だ。もう小学六年になる。夏休みだから遊びに来てるけど、おれに似て美少女だよ。
女房の夏希が死んでからは、夏希の実家に預けてる。裕福だからおれも甘えさせてもらっているけど、正直助かる。
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