第1章・愛のかたち

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K出版社の駐車場に間隔をあけて入る4台の内、1台は意識的に少し離れて止まった。 出て来ない様子に松本の車に近寄る長谷川編集長。 『何かトラブったのか?佳那子くん?松…拓也くん?』 コンコン…と控えめ合図してみるが反応はない。 『佳那子くん!?ま、拓也くん!?吉井さん?』 『編集長、あたしが声をかけてみるわ』 『藤永?』 お団子ヘア・ラフなワンピースに着替えた藤永がニヤリと笑う。 2人の気持ちを知る藤永だからこその粋な計らいかと思われた。 『早くしないと開けるわよ、松っ本さーん』 コンコン…と悪びれもなく合図する。 ……… 『私が佳那子さんの膝で寝ちゃって』 『松本さんじゃなく?』 『か…佳那子さんで…す』美和は赤くなりスカートの裾を握りしめた。 『だから髪がクシャクシャなんだ?膝で寝てそんなに髪が乱れるかしら?』 美和はさらに赤くなり藤永やみんなの顔が見られなかった。 『ふぅ~ん…ウソ…ってにおいがするけど?』 『美和ちゃんが困ってるのに信じてあげないの?』 『色男のお姉さん(笑)』 K出版社で度々顔を合わせる為に顔見知りな2人。 年上だから遠慮がちな言葉とは無縁の藤永。 『相っ変わらず怖いもの知らずね』 佳那子は呆れながら藤永に苦笑する。 『松本さんは電話…電話中です』 佳那子・藤永のお笑い的なトークに気がいっていたみんなは美和の言葉に注意を向けた。 『電話中で…す』 『ふぅん、電話中じゃ仕方ないな』 『電話終わりました』 佳那子も美和も振り返り拓也を見た。 松本さん… こんな松本さんはじめて…ドキドキする… ドキドキするの… 藤永はスカートの裾から手を離し拓也に見とれている美和から…佳那子の膝枕も電話もウソだと見破った! 『どうしちゃったんだい?(笑)その服』 長谷川編集長やみんな拓也を凝視した。 『ストライプだけじゃ寂しいでしょ?』 『目立っちゃうぜ』 『いわゆるアクセント的な、テーマはラブね』 あまりにも堂々としたセリフに、周りはそれならそれで良いと思えてしまうのが不思議。 佳那子は“良く言うわ”と呆れ顔で拓也を見ていた。美和は拓也のシャツを見て顔があげられない。 藤永は事の真相を知りたいが為に悔しそうだった。 『予備のシャツくらいあるだろう?着替えないのかい?』 『シャツはあるけどこれが良いのよ』 美和はまたうつ向いて泣きそうになった。 松本さん……! ごめんね!
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