3.3.儀式

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 少年はそれまで取らなかったフードを外し、片手の元剣士を見上げた。 「あんたには名前を与える必要はない」  少年は元剣士を見上げて言った。 「なぜだ。貴様は我らに名前を与えるのではないのか」  元剣士は挑発するように言った。 「あんたは名前をとっくに持っている」 「どういうことだ?」  元剣士が眉を上げた。 「あんたも気付いてるはずだ。あんたは特別だ」 「そんなことは知ってる」 「だから、あんたはもう誰からも知られている」 「それがどうした」 「あんたの名前はとっくに決まってる」  少年は瞬きもせずに元剣士を見つめ、続けた。 「あんたは皆からあんたにしかない名前で思われてる。あんたはここではずっと前からそうだった。それが、あんたの名前だ。 「あんたのことはこれから誰もが名前で呼ぶ。あんたが勝っても負けても、あんたは名前で語られる。あんたの名前が語り継がれる」 「永遠に?」 「それは『炎』が言ったことだ。永遠なんて無い。死んでからも覚えられるってだけの話だ。ただ、あんたに名前が無きゃ誰もあんたのことを覚えていられない。忘れるだけだ。オレがあんたに名前を付けたいんじゃないんだ。あんたが名前を欲している。だから、あんたに名前を与えよう」  少年は再びフードを被り、ひざまずけ、と告げた。  片手の元剣士はその巨体を少年の前でかがませ、頭を下げた。  少年は元剣士の肩に手を置いた。 「あんたの名前は『片手』だ」  次の瞬間、少年は消えた。  片手は赤い髪の若者が持ってきた液体を一気に飲み干した。焼けるような熱さが喉を通り抜けていく。すぐに身体中が熱くたぎり、力が、今までに感じたことの無い力がこみ上げてくる。  受け取った剣をすぐには突き上げなかった。片手は剣を自分の脇に軽く当て、ゆっくりと引いた。服が裂け、浅く切られた肌から剣の表面に血が滴り落ちる。片手は剣を顔の前に持ち上げ、そこについた自分の血を舐めた。  それから高く剣を突き上げ、吼えた。
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