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小さな少年はパタパタと小さな足音をさせて扉の外に消えていった。
「ここから連れて行ったのは元気か」
「炎のこと? 元気でやってるよ」
少年は何かを思い出したかのように含みのある笑いを浮かべた。
「炎? なんだそれは?」
「名前だよ。ボクは皆に名前を授けてるんだ」
得意げな少年を見ておじさんが顔をしかめた。
「炎は優秀だよ。ボクの代わりに皆に色んなことをちゃんと説明してくれてる。絵を描くのがうまい。あ、それと、楽器もできる。ボクは絵も楽器もダメだ」
「奴は危ない」
「あ、おじさんもそう思う? 分かるよ。ボクもそう思う」
「宮殿には連れて行っていない」
「知ってるよ。行きたがってるけどね。教えてないよ、大丈夫」
少年の目は笑っていなかった。
「なぜ、火を使っている?」
「ああ、そのこと? だって、おじさんが見せてくれたんじゃないか、火を」
少年の目が挑むようにおじさんに向けられていた。それを押し返すおじさんの目も、決して負けてはいなかった。
「何が望みだ」
「ボクらは地上をめざす」
「地上?」
おじさんの声が高くなった。
「そうさ、地上さ」
少年は口の端を上げた。
「地上は……」
「滅亡したって言いたいんだろ?」
少年はおじさんの言葉を待たずに言った。
「もうその話はうんざりだよ。考えてもみてよ。世界が滅亡したのは人口の爆発だって、食料の不足だって言うよね。でもさあ、じゃ、なんで地下のこの世界は食料が充分に足りてんのさ。ここで食料が足りなくなることが無いんだったら、おじさんの言う地上の世界だってなんとかなったんじゃないの。それにさあ、そもそも食料の供給がこの世界だけで閉じてるってこと、考えるとおかしいよ。この、地下の世界の生態系は閉じちゃいない。どこかが補ってるんだ。それが地上だって」
「何を……」
「待ってよ、まだあるよ」
少年は口を挟もうとするおじさんを制して続けた。
「山羊女の儀式の審査員っていうの、あれは誰? あの人たちはどこから来てるの? おじさんは分かってるの?」
「それは……」
おじさんは手を頭に当てた。
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