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「また痛んでるんだよね。思い出そうとしてるんだ。多分、おじさんは知ってるんだよ、あの人たちが地上から来てるって。あの人たちはここの男たちとも衛兵たちとも違う。皆はおばさんって呼んでる。おばさんってなに? ボクは知ったよ。そう、これだけは自分で考えても分からなかった。だから本を探して知った。おじさんは知ってるよね、おばさんっていうのは年をとった女だ。女っていうのはこの世界には山羊女しかいないはずだよね。だったら、あの審査員のおばさんたちはどこから来てる?」
少年はおじさんの顔色をうかがった。
おじさんの顔は激痛に歪んでいた。
「いいよ。ボクが言うよ。あの審査員のおばさんはね、地上から来てるんだ。そうだろ? どうしてそれを教えてくれなかったんだろう。不思議だよ。都合が悪いことは忘れたふりなのかな。それともおじさんの言う本に書かれていない滅亡後の世界の話なのかな。まあ、今のボクにはどっちでもいいんだ。地上があることが本に書いてなくたって、自分の頭で考えれば分かることだったってことさ」
少年はそう言い放つとすっくと立ち上がった。
おじさんは身体を前に倒し、目を閉じ、苦しげに唸っていた。
「かわいそうに」
少年はおじさんは見下ろして言った。
出て行ったはずの小さな少年が扉の隙間から部屋の中の様子をうかがっていた。
「あの子はまだ連れて行かないよ」
少年はおじさんの背中に手を触れた。
しっとりと汗ばんでいた。
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