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激しく燃え盛る炎の中で朱色に輝くまで熱された鉄筋は、太めとガキどもの使う「金槌」で何度も叩かれ、薄く長く鍛えられていた。太めとガキどもの全身からは汗が絶え間なくにじみ出していた。その汗を拭う暇もなく、炎に突っ込んだ何本もの鉄筋を次から次へ取り出しては、ぎこちない手つきで叩き続ける。熱が冷め黒くなった鉄筋を再び炎の中に突っ込む。
「なんだ、この出来は」
壁に立てかけられた不揃いな剣の前で、赤い髪の若者がガキどもを問い詰めていた。
ガキどもは若者にかまわず作業を続けていた。
「聞いてんのかよ」
赤い髪の若者の声は鉄を打つ音に紛れガキどもの耳にはほとんど届いていないようだった。
「おう」
若者の目の前に現れた太めは、片手に「槌」を、もう片方の手にはまだ赤く光る鉄筋を持っていた。
若者は太めの姿を見て口をつぐんだ。
太めは顔の下半分を覆い隠す髭から滴り落ちる汗を、太い腕でぐいと拭った。怪我をしてからもうだいぶ経っていたが、片足はまだ少しだけ引きずっていた。
若者は後ろに下がった。
「おまえが指図したいのは分かってるけどな、オレたちだってやってないわけじゃない。もう少し時間がかかるって言ってるだけだ」
太めはそう言いながら若者を見下ろした。
若者が口を開きかけたその時、ホールの入口から背の高い男が入ってきた。片手の元剣士だった。
太めよりも遥かに背の高い片手の元剣士は太めをじろりと見下ろした。
「この程度の出来なんだけど」
若者は不揃いの剣に向けて手を広げた。
元剣士は剣を持ち上げ、軽く振り回した。
太めが一歩退いた。
太めが持っている鉄筋は熱が冷めすっかり黒くなっている。重そうに見えた。それと比べて、片手の元剣士が持つ剣はこれ以上ないぐらい軽そうに見えた。
「悪くない」
片手の元剣士は歯を見せ、満足げに言った。
「この程度で?」
若者は驚いたように言った。
「これまで使ってたのに比べたら」
片手の元剣士は本当に満足しているようだった。
「なるほどね」
若者は肩をすくめた。
「ということなんで、よろしく」
若者はだいぶ後ろに下がってしまった太めに向かって気軽な感じで言った。
太めは舌を打つと、冷めてしまった鉄筋をまた炎の中に突っ込むために元の場所に戻った。
若者は太めの後ろ姿を見送りながら小さく肩を振るわせ声を出さずに笑った。
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