3.3.儀式

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 まったく別の音が台の上から流れ出していた。長く伸びる高い音が、最初はかぼそく、徐々に力強く、ホールを満たしていく。ガキどもや赤い男たちの短く繰り返される音の隙間を埋め、バラバラだった音を結びつける。  音の元は赤い髪の若者が顔の前に突き出した長い楽器だった。若者は目を閉じ、全身でその金色に輝く楽器に息を吹き込んでいる。  上下に飛び跳ねる男たちの息遣いと足音に一体感が生まれだしていた。繰り返される音もますます熱を帯びていく。若者の楽器も細かい音を刻み始めていた。  男たちは熱狂し、叫び始めていた。もはやあらゆる音が渾然一体となり、一度は整っていた音が今度は徐々に入り混じっていく。男たちの叫びも絶叫に変わっていく。ホールの中は猛烈な音と、そして汗と燃える炎の匂いとに満たされていた。  突然、天井の照明が明るく点灯した。その直後、照明が消える。床に置かれた炎もあらかじめ待機していた男たちの手で大きな容器で覆われた。  ホールは完全な暗闇の中、音と匂いと振動だけで満たされた。  その闇を裂くように鮮烈な光が一直線に伸びた。  汗塗れで飛び跳ねる男たちが歓声を上げた。  入口から何者かが隊列を組んで入場してくる。  元剣士たちだった。  元剣士たちはホール中央の台をめざして進んでいく。台の上では楽器を置き、片手に棒を持った赤い髪の若者が待ち構えていた。  元剣士の最初のひとりが台に上がった。  赤い髪の若者の片手の棒の先から大きな炎が上がった。若者はその棒を台に上がった元剣士に向けて突きつけた。元剣士は目の前の炎から一歩も退かなかった。瞳に燃え盛る炎が映っていた。  赤い髪の若者は炎をついた棒を元剣士の眼前から離した。そのまま顔を元剣士の耳に近づける。その耳に向かって何かを伝えた。元剣士は目を閉じた。  跳ね続ける男たちの叫びと動きが止まった。
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