3.3.儀式

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 目を開けた元剣士の目の前には赤い髪の若者ではなくマントのフードを深く被った男が立っていた。  マントの男は元剣士に何かを告げた。  元剣士はひざまずいた。  その肩に手を触れたマントの男が何かつぶやいた。次の瞬間、姿を消した。  驚きのあまり声も出さずにひざまずいたままの元剣士に、赤い髪の若者が細長い筒を渡した。元剣士は立ち上がり、赤い髪の若者に促されるまま、その筒に口をつけた。迷うように一口飲み、それから一気に中身の液体を飲み干した。  赤い髪の若者は剣を掲げ、元剣士に手渡した。元剣士は受け取った剣を片手に持ち、台の下で跳ねる男たちを見渡し、剣を天井に向け突き出した。  ホールは割れんばかりの怒号に包まれた。男たちが前より激しく飛び跳ね始めた。  元剣士たちは次々と壇上に上がり、突然姿を現し、突然姿を消すマントの男から何かを告げられ、赤い髪の若者の渡す液体を飲み干し、剣を受け取った。  最後の元剣士が台の上に上がった。片手の元剣士だった。  片手の元剣士は赤い髪の若者が突きつける炎に動じることはなかった。赤い髪の若者が精一杯背伸びして耳に何かを伝えようとするのを制する。赤い髪の若者が事前に何度もくどいほど伝えた段取りに従うつもりは最初から無かった。  片手の元剣士は、マントの男、地下世界の男たちに名前を与えるもの、ガキどもを率いる少年、その登場を目を閉じることなく待っていた。  何の兆しも無く虚空からマントの少年が姿を現した。  片手の元剣士は少年を見下ろした。
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