第1章

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 僕の彼女は看護師だ。 世間じゃ看護師を白衣の天使なんて呼んだりするけど、僕の彼女は白衣を着ていない時も天使だった。  彼女には苦労をかけた。  付き合い始めてすぐ、僕の心臓に病気が見つかった。あまり聞き慣れない病名で、原因は不明。 悪い事は続くもので、立て続けに肺と肝臓にも病気が見つかった。 他にも小さな異常を挙げればきりがない程に僕の体はボロボロになっていた。  入退院を繰り返し、度重なる手術を受けた。  職場の建築会社を辞めた。 病弱な僕に肉体労働は最早務まらなくなっていた。  彼女はいつの間にか、一人暮らしの僕の部屋で寝起きするようになっていた。  炊事、洗濯、掃除。彼女は嫌な顔一つせずに身の回りの世話をしてくれた。 仕事でくたくたのはずなのに。  人生を悲観する僕を励まし、温かい笑顔で包んでくれた。  絶望して震える僕を強く抱き締めてくれた。  彼女はそっと耳打ちする。  「大丈夫。私がついてる」  優しく微笑する彼女はまさしく天使だった。  今日は彼女の誕生日。 なけなしの貯金を切り崩して花束を買った。安物ではあるけれど。 せめてもの感謝とお詫びのつもりだった。  彼女の看病の甲斐なく、僕は今も病弱なままだ。これからも苦労をかける事だろう。  キッチンにエプロン姿の彼女の背中。  気付かれないよう息を殺して歩み寄る。花束を背中に隠して。  味噌汁の鍋を掻き混ぜていた。 旨そうな匂い。思わず腹が鳴りそうになる。  彼女がお玉を置くのを見計らって肩に手を伸ばした。 だけど僕の手は寸前で止まった。
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