第1章

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◇ ◇ 「あ、もしもし千尋、――?? ねえねえ、須藤君のこと、聞いた??」 相変わらず美郷は私のことなんか、おかまいなしに話し出す。 「……何よ、いきなり」 「その様子だと何も知らないのね」 私は腕にかけていたスーパーのビニール袋を玄関に下ろすと、小さな溜め息を吐き出した。 「ねえ、ちょっと待って、――。今、帰ってきたところなの」 パールのビジューがたっぷりついたお気に入りのミュールのストラップを外しながら 「で、何、――?? 須藤君がどうしたの??」 私は玄関に鍵をかけリビングへと向かう。 高温注意情報が発令された、8月1日。 うだるような暑さの中、わざわざ外に出かけたのはプチトマトがなかったから。 「今朝グループLINEで回って来たやつ、見てないの??」 「何それ、――。まだ見てない」 テーブルの上のリモコンを手にして体感温度を24℃に設定する。 すぐに冷たい風を足元に感じて、私はリビングから和室へと続く扉を開けた。 「あのね、須藤君、亡くなったんだってよ」 「亡くなった?? 死んだの??」 「そうみたいよ。何か今警察とか来て大変みたい」 「え、何で、――??」 「自殺よ、自殺。ほら、あの物流倉庫に流れる道あるじゃん。遮断機のない踏切んとこよ。あそこで車ごと列車に轢かれたんだって」 「まじ、――??」 「あの辺り、夜になると真っ暗じゃない。運転手が気付いてブレーキかけたらしいんだけど、間に合わなかったみたい」 「そんな……。でもどうして……」 「どうやら結子と揉めてたみたいなの」 「結子と?? だって同窓会の時には二人とも幸せそうだったよ?? 結婚も決まってみんなにお祝いしてもらってたじゃない」 「それが上手くいってなかったらしいんだよね。 何かね、須藤君の車から彼以外の血痕が見つかったんだって。それで警察が動いてるらしいよ」 「血痕?? 何それ、怖いんだけど」 「それに結子、どうやら行方不明らしいの」 「えっ、結子が?? どういうこと??」 「真紀のところに結子のお父さんから連絡がきたみたい。それで朝からグループラインが動いてるんだけど」 「ちょっと待って、――。LINE、見てくる」 「オッケー。じゃあLINEで話そう。既読したらコメント入れて」 「わかった」
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