第1章

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◇ ◇ 県立湊東高校の学食で、最も人気があったメニュー。 それは定番のカレーではなく、トマトケチャップたっぷりのナポリタンでも、運動部に人気のハンバーグと唐揚げがセットになったA定食でもなかった。 湯がいたもやしと薄めのチャーシュー、そして青ネギ。 そこにコーンとやけに発色の良いなるとが1枚乗っけられた、シンプルな醤油ラーメン。 この昔ながらの醤油ラーメンこそが、年間を通しての売り上げナンバーワンメニューだ。 だけど、――。 その王座があっさりと奪われてしまう時期がある。 6月から9月までの夏季限定。 いわゆる『冷やし中華はじめました』ってやつだ。 胡瓜とハムと錦糸卵。 そこにお誕生日ケーキの苺さながらに、ちょこんと乗っかったプチトマト。 「マヨネーズなしのタレ多め」 勢いよくチケットを出しながら、いつも食堂のおばちゃんに大きな声で注文してた、須藤君。 「川口も冷やし中華??」 「うんっ、――」 最初に声をかけてきたのは、須藤君だった。 だけど、私は、――。 もっと、もっと、ずっと前から。 あなたのことが好きだった。 彼から告白された時、――。 私は驚きと喜びで胸がいっぱいだった。 神様っているんだなあって、瞬時に世界の色が変わって見えた。 恋をして改めてわかったことは、幸せと切なさが共存するってこと。 いつの間にか「千尋」と下の名前で私を呼ぶその声に、言葉では言い表せないほどの満たされた想いを感じた。 だけど、須藤君のことが好きだと想えば想うほど、切なくて苦しくて。 ……胸が張り裂けそうになった。 そんな私の胸の内を、唯一吐き出すことができたのが、親友、結子という存在だった。 幼かった恋は、半年にも満たずに終わってしまう。 私の束縛が嫌になったと別れを切り出されたとき、一緒に泣いてくれたのは、結子だったよね?? 私の気持ち、一番理解してくれたのは、結子だったよね?? 私は結子がそばにいてくれたから……立ち直ることが出来たんだよ?? それなのに、―――。
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