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「ねえ、誰なの?? 同じクラスの人とか??」
「うん、あのね、――」
壁に立つ、スーツ姿の男性に私は釘付けになった。
嘘……まさか、違うよね??
「久しぶり、――川口」
随分と昔、私のことを名前で呼んだその声の持ち主は、穏やかな笑みを私に向けた。
「……結子が結婚する人って、須藤君なの??」
「そうなの。今回、ご縁があってね、結婚することになったんだけど。どうしても千尋ちゃんには一番最初に報告したいなって、二人で……」
「ちょっと待ってよ、もしかして気を遣ってくれたの??」
「そういうわけじゃないけど、結婚が決まったことを千尋ちゃんが他の誰かから知ったら……あまりいい気はしないでしょう??
だから自分の口からちゃんと報告したかったの」
「馬鹿ね……。そんな昔のことで気を遣うことなんかないのに。せっかくのおめでたいニュースじゃない」
「だってえ」
グスンと鼻を鳴らしながら、うるうるした瞳でギュッと腕にしがみ付いてくる結子に、ちょっぴり胸が痛かったのは、確かだ。
だけどそれ以上に、――。
幸せそうに笑い合う二人の姿に、私は自分のことのように嬉しいとまで思っていた。
幸せになってほしいなって、心の底からそう思っていた。
会もお開きになって、それぞれのクラスが二次会へと向かう流れの中だった。
結子と須藤君はみんなの前で婚約を報告し、たくさんのお祝いの言葉を貰っていた。
少しテンションが上がって結子は飲み過ぎていたのかもしれない。
「いつから付き合ってたの??」
何気なく口にした質問に、結子がその鈴の音のような声で返事をする。
「高2の夏かな」
「えっ」
驚く私を見て、結子はしまったという表情を浮かべた。
私と須藤君が付き合っていたのは、高2になってすぐのことだ。
それに夏って、―― まだ別れてはいない。
別れた後もずっと好きだったの、知ってるよね??
一緒に泣いてくれたんじゃ、なかったの??
影でこそこそ二人は付き合ってたの??
ねえ、結子、―――。
夏ならさあ、どう考えたって重なってるじゃん。
私のこと、騙してたってこと??
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