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◇ ◇
この暑さの中、汗にまみれて湿った動物の匂いを放つ結子を、引き摺るようにしてバスルームへと連れて行く。
冷たいシャワーを頭から浴びさせると、結子は狂ったようにその水を口にした。
湯船にお湯を張り、そこに身体を沈めると結子の表情も次第に緩んでいく。
「千尋ちゃん……」
「何??」
「須藤君のこと……」
「あいつの名前、出さないでくれる?」
同窓会以来、結子が落ち込んでるからと、彼はわざわざ謝罪をしたいと言って私に会いに来てくれた。
もう何年も前のこと。
私だって大人だし。
高校生の頃の恋愛で喧嘩するなんて、ちょっと大人げなかったなって、結子に謝るきっかけを探していた。
湯船の栓を抜き、お湯が半分ほどになったところで今度は水を足していく。
温まった身体からどんどん体温が奪われて、結子は両手で身体を擦りあわせた。
「あいつ、最低なんだよ」
「え……?」
「同窓会で会った時から私のことが忘れられないって。
送ってくれるっていうのを私が信用しちゃったのがいけないんだけどね」
『怒ってるわけないじゃんって結子に伝えてね。今度また一緒に食事でもしようよって、そう言っといて』
須藤君は「わかったよ」といいながら、帰ろうとはしなかった。
「ここに上がり込んで無理やり……」
「……」
「結子に黙っていてほしかったら言う通りにしろって言われたわ」
「う、嘘よ……」
「嘘なんかじゃないわ。何度もここを訪ねてきて、結子と結婚した後も関係を続けようとしてたの」
「そんな……」
「ほんの少し、薬を混ぜたの。
須藤君のことだから泊まっていくという選択肢はないはずだから。
眠たそうにしてたから、私が送って行くって運転してあげただけよ」
「じゃ、じゃあ……」
「あの辺は本当に誰も通らないのよ。眠ってしまった須藤君をそのままにしてきただけよ。私は何もしていないわ」
「千尋ちゃん……」
「結子、妊娠してるんだってね」
「えっ」
「結子には言えなかったんだけど、私が須藤君と別れた本当の理由、知ってる??」
「……っ」
「私の初めてを奪ったのは須藤君なの。合意の上なんてもんじゃなかったわ。それでも私は馬鹿だから……ずっとずっと好きだったの。須藤君しか知らないんだもの。これが普通なんだって、ずっと思い込んでたのよ」
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