旅立ち

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   シピリュオを旅立つ日がやってきた。ほんとうはすぐにでもこの街を離れたかった。シピリュオでジュリアと過ごした日々が脳裏に浮かぶたび、癒えぬ悲しみがこの胸をえぐるのだ。  とはいえ、オレのダメージは深刻だった。対ムスクコッコ戦で負った傷により、オレは強制治療を余儀なくされた。サオリコモンドの恩情――などではなく、ルーチャン隊長の個人的な行動だ。隊長は時間の許す限り、オレに治療魔導を唱えてくれた。その甲斐あって、三日後にはどうにか動ける程度に回復した。  治療魔導を唱えているあいだ、ルーチャン隊長はひどく寂しそうな顔をしていた。いまにして思えば、隊長がお師匠さまに隊長代行を依頼したのは、恋慕を寄せるお師匠さまをこの街につなぎとめておくためだったのではなかろうか。そして、オレのワンゲート入学さえも。
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