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湯治の言いたいことは偉知には分かった。
両親の出発だ。
「そうだな」
「不安か?」
「まあぼちぼち」
「さっきの俺よりは大丈夫そうだろ?」
湯治は眉毛を吊り上げ冗談めいて自分に親指を立てた。
「あったりめえよ」
偉知は湯治の冗談に乗った。
拳を突き立て、自分を鼓舞する。
本当は、偉知は不安で仕方なかった。
いつもより口調の乱暴なことに、湯治は気が付いていた。
親友の湯治には偉知の元気付け方は手に取るようにわかる。
一方の偉知も湯治の手口は良く知っていたし、乗った方が自分の為になることがよくわかっていた。
「天才黒須家だからな! 偉知以外!」
「もう湯治に勉強教えねえ」偉知がそっぽを向くと、湯治は慌てた素振りをする。
「あっすみませんでした」
「俺、どうせ勉強苦手だからな」
「この度は本当にありがとうございました」湯治は深々と頭を下げる。
くだらない会話だった。
二人は高校生らしい無邪気な笑っていた。
それが数時間後には失われるとは、彼らは思ってもいなかった。
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