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一瞬で支度を済ませ、制服の学ラン姿に着替える。
玄関には車いすが置かれている。
杖を車いすの後ろに装着し、鞄を乗せる。
体操選手のように腕で飛ぶように乗り込むと、電源を入れた。
「鍵は持った?」
水星が玄関まで歩み寄る。
「持った! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
水星は手を振った。
奥で衛知も手を振っている。
「あそうだ」一度発進させた車いすを急ブレーキさせ、偉知は振り返った。
「父さんと母さんも行ってらっしゃい」
手を敬礼の形で額の前に差し出した。
「行ってきます」両親は同じしぐさで声を揃えた。
ドアを開け、再び車いすを走らせる。
玄関前には幼馴染の同級生、白木千直(しらき ちなお)が腕を組んで待っている。
濃い灰色のブレザー姿、茶色の学校指定鞄を肩にかけ、赤い腕時計で時間をジッと眺めている。
「イチ、急げいそげ!」
「すまん、文句は目覚まし時計に言ってくれ!」
千直は駆け足で先に走る。
偉知は手元のレバーをいじって、車いすを手動に切り替えた。
手で車輪を強引に回す。
腕力には自信がある。
数メートル離れていた千直の隣まで一気に追いついた。
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