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この一本杉を境に、道が二手に別れている。…左の広い道を行けば自分が目指す街へ出るが、右の暗いだけの道を行けばその道の終わりに細長い川にぶつかって、そこにある渡し船に乗れば、罪人や身元不明、引き取り手の無い者達がまとめて埋葬されている〝嘆き墓地〟に行ってしまう。
「‥あの…‥」
僕は、彼女がどっちへ行くか気になっていた。だが、彼女は迷わず〝嘆き墓地〟へ通じる方角ね右に曲がった。
「………‥、」
あんなうす気味悪い所…‥、なんで行くんだろ?心の中で、僕は何度もそう繰り返していたが足は結局彼女の後をひょこひょこ付いて行ってしまって…‥。今考えても何故そうしてしまったのか?まったく分からないが、大の大人の男でも夜に行くにはそれなりの勇気というものが必要な、とても不気味な道だった。
《‥もし、あなた。》
僕がすぐ後ろから付いてきているのに気づいた彼女は一端先を行く足を止めて…だが、振り向く事は無く、初めて声を聞かせてくれたのだ。
《あなた‥‥。私がこれから本当に行く場所を、実は勘づいていて…怖がっているのでしょう?》
この時聞いた彼女の声。
それは…遠い記憶の中の、何処かで聞いたハズだと思える程の‥‥柔らかく、温かく、優しい響きを持った…だが、非常に悲しい声だった。
「……‥」
《~そうです。えぇ‥、私、これから嘆き墓地に参りますの、》
〝嘆き墓地〟そこが毎年決まって、こんな生暖かい夏の夜に若い女の幽霊が出ると噂になっている場所である事をこの時ようやく思い出したが、もう遅い。…‥‥と、いうか、「まさか、この美しい若い女が幽霊なのか…?いや。そんなハズは無い!だいたい僕達が出会ったのは…ここよりずっと向こうのあぜ道を歩いていた時なのだから!……いや、しかし‥‥」
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