~夏の夜~(妄想物語)

5/9
前へ
/40ページ
次へ
 ~…彼女は〝嘆き墓地〟の中央の一番奥に建てられている墓石の前までツカツカと進んでゆき、立ち止まった。そして、誰が埋められているというのか?彼女は荒れ放題荒れてコケむしている汚い墓石を見つめながら涙ぐみ、悲しみにふけっていたが、丁度その時、氷のように冷たい強い風が彼女の長い絹糸のような黒髪をなびかせ、朝露のように淡い涙を拐っていったので、僕は急いで彼女の顔を覗き見た。~…‥本当に、美しい‥‥~  僕は、なんの気なしに彼女の手を握り、 「どうか…、泣かないで下さい!」 と叫んでいた。すると彼女は僕にそっと身を寄せてきたが……一体、この後…どうすれば良いのだろうか?なんてこの後におよんですっかり血迷ってしまった。が、無理も無い。…‥‥こんな事は、今まで一度も無かったのだから。…だが、なんとか、ここでオトコを見せなければ!!と、強く思う。 「‥あ、あ、貴方は…とても美しいです!」 だから、これぞ!という言葉をかけてやるつもりになっていたのに…現実は、 「…‥ぼ、僕は一目見て…ぅをオ!!と、惹かれてしまいました‥。本当です!」  ‥ああ……、僕は、何を云ってしまったのだろう?…まったく!これではアホを通り越してまるで〝変人〟ではないか!?………‥ああああ!!!とっさの事とは云え、もっと良く考えてモノを云うべきでは無かったのか!?それなのに緊張に負けて…何を云ってしまったんだ僕は!?と、自分自身の弱味(女性に免疫が無い。)に負けて、気が付けばとんでも無い言葉を口から出してしまっていた恥ずかしさに負けて、もぅ…何も云うまいと、ただ彼女の手を握ったまま固く口を結んで黙りこみ、赤面してしまった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加