3人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、「穴があったら今すぐいつまでも入っていたい…。」状態の情けない僕に向かい、彼女は、
《素直な…ステキな殿方にしか出来ない反応をなさるんですね。》
と、云ってくれたのだ。そして…それからこうも云ってきた。
《でも、貴方を育てたのは〝ソヤ〟という妾…‥。それを貴方は…本当の母親だと思っている‥‥。》
僕は、思わず聞き返してしまった。
「~どういう事ですか?」
彼女が話す。
《…貴方には、本当のお母さんが居たのです。‥‥家の事情で…貴方の御父様とどうしても添い遂げるしか無かった……‥落ちぶれた‥っ‥武家の娘…。》
「………‥。」
《その娘には、心を通じ合わせた方が…‥。でも、全てを捨て、御家の為に貴方の御父様の元に嫁いだのです。~…‥でも、容姿だけを気に入り、嫁に迎えたアノヒトは……酒を飲んだり、仕事で何かある度に娘に酷い仕打ちを…。だから毎日毎日生きた心地もしなかったのに…。~…ある日、遊郭から一人の遊女を買い上げて‥帰ってきたのです。》
「‥‥遊女…ま、まさか‥!?」
《えぇ。その遊女が〝ソヤ〟です。》
驚いた。というより何より‥すぐには信じられず、まず耳を疑った。‥‥まさか…まさか…‥今日の今日まで〝実の母親〟だと思って生きてきた母親が…元遊女だっただなんて!?
いや、それよりも、この人が話してくれたような娘の話など、誰からも、一言も、噂すら聞いて来なかったのだ。だから、信じるなんて………。だが、まったくの嘘だとは思い切れない自分が確かに居た。…何故だかは分からないが、この人の話を聞かなくては‥。この人の話から、眼を、決して反らしてはならない。と強く思っている自分が僕の耳をふさぎはしなかったし、怒りすら、顔を覗かせやしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!