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僕が彼女と出会ったのは…四、五年前の夏の夜のどうも、うすぎみ悪いあぜ道を歩いていた時だった。~‥その…前を歩く女性は、まるで幽霊でもあるかのように真っ白い着物に白帯を締め、絹糸のようになめらかな長い髪を時折吹いてくる生暖かい風に揺らせていて、おまけに裸足であった。
僕は、彼女になんの理由もなく近づき
「今日は寒いですね?」
と、声をかけた。すると彼女は、ただ僕を見つめてきて優し気ににっこりと笑った。その笑顔は、なんとも云えないものだった。
気がつくと僕は、彼女の虜になってしまっていた。
それから二時間あまりが経過していたが、彼女は何もしゃべらなかった。ただ僕が一方的に話しているのを聞き、それに応じて細い首をかしげたり、涙ぐんだり、笑ったりしている。
それの他には何も無かったが、その仕草に僕は何故か?言葉に出来ない感動さえ覚えたような気がした。しかし~…‥一体、どれくらい話し込んでいただろう?このあぜ道は仕事の度によく利用しているので迷うハズは無いのだが、それなのにいつもならもうとっくに街へ出る目印の一本杉の前にまだ出られない。
「…‥道…今更だけど長く感じるな……‥気のせいかなぁ?」
なんだか微妙に心配になってきて、さて、どうしたものかと大きく独り言を呟く事で心配を吹き飛ばそうとしていると、相変わらず声を聞かせてくれない彼女がそっと振り向いて真っ白い着物の袂をやや気にしながら前を静かに指し示した。
「あっ!」
その彼女の白く、細い指先を視線だけで辿って見ると、その先には自分が探していた一本杉が見える。
「ありましたね!ありました。~はははっ!」
目的の物が見つかったら今度はなんだか心配をしていた自分自身が恥ずかしくなってしまい、アホのようにフヌけた高めの声をあげ、ついでに短く笑った。
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