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「おいクロ、大丈夫か……?」
「はい……」
「風呂入れんなら、入っちまえよ」
「ありがとうございます」
シャワーを体に当てると、随分体が冷えていることに気付いた。丁寧に体を洗って湯船につかる。
御主人様のうちでは湯船につかることは許されていなかったので、数年ぶりのはずだが自然と湯船につかった自分に驚き、少し面白くなった。
「お風呂、ありがとうございました」
「おう、そこに寝床用意したからな」
僕が風呂を借りているうちに、真島はソファの下に布団を用意してくれていた。
「そんな……本当に玄関で充分でしたのに」
「クロ、アンタ本気でそんなこと言ってんのか?」
本気も何も、僕は最後に冗談を言ったのはいつだったか思い出せないくらいなのに。
「まあ、とりあえずそこに寝ろよ。本気で玄関に寝られたら、人でなしみてーで俺が落ち着かねーからよ」
「……すみません。それではお言葉に甘えます」
玄関で寝かせたら、人でなしなのか。それなら僕の御主人様は人でなしなんだろうか。
御主人様の住まいはタワーマンションで、床暖房も入っていたから大理石調の床に一枚敷物を敷いて寝ていた。御主人様の機嫌がよければ毛布を貸してもらうこともあったが、かけるものはないことが多かった。
布団に入ると、はじめは落ち着かなかったのにすぐにその温かさと布団の重みが心地よくなる。床暖房の、体の水分をすべて奪い去るような心許ない温かさではなくて体の内から温めてくれるぬくもり。僕はなぜだか怖くなる。この感触に慣れて、そのあとにくるものが怖い。
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