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驚いたけれど、ひとり暮らしだからって恋人がいないわけではないだろう。真島の、あの大きなダンプを転がすに見合った立派な体躯は男らしいし、顔のつくりも昨今流行の草食系男子や眼鏡男子とは程遠いが、絵にかいたようなワイルドさで、好みの人にはたまらないだろう。
だから、そういう相手がいない方がおかしい。真島の部屋に女性がよく来るなら、自分は早々に引き揚げなければならないと思った。
――だが、どこへ行けばいいのだろう。
三年間も浮世から離れていた自分は、どうやって人生を立て直していけばいいのだろう。
それから部屋の中の掃除を一通り終えて、ほっと一息ついた。座り場所ができたソファに座らせてもらう。
遠くで車が走る音や、学校帰りの子供の声が聞こえた。空は青くて、透き通るようなすじ雲が流れているのを見ると、自分の体も血が通っていて、生きているのだと感じた。
望んで下僕にしてもらったはずなのに、この虚無感はなんなのだろう。考えれば考えるほどわけのわからないものに押しつぶされそうになり、呼吸が苦しくなった頃、電話が鳴った。
「!!」
驚いて心臓が跳ね上がったが、おかげで囚われていた変な考えからは解放される。とはいえ、人のうちの電話なので勝手に出ることもできないので、そのままにしていると留守電に切り替わった。
「おーい、クロ。いねえのかよ」
真島の暢気な声が聞こえた。慌てて受話器を取る。
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