プロローグ

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「あーあ……」  警察、状況説明、会社連絡、ここの社長にも電話を……一瞬にしていろんなことが頭を巡って、そのあとゲンナリした。  こういった面倒ごとに巻き込まれたくないから運転手をしているのだ。決まった人と、決まったこと以上話さなくていいから。  はじめはマネキンでも転がっていると思った。いやそうあって欲しいと。  それでも少しずつ近付くと、マネキンでも、女性でもない、それは男性だった。細いが手足が骨ばっていて長い。  男は全裸で手首と足首をそれぞれ、赤い紐のようなものでくくられて体をくの字に折っていた。  パッと見、酷い外傷などは見当たらない。だが、どんな人生を送ったら、死んだ後こんな薄暗い塵と埃まみれの場所に転がされるんだろうと、少しだけこの男が不憫になった。  とりあえず手を合わせてからポケットを探り、携帯電話を探す。  どこから電話をしようか。やっぱり警察か? いやいや、ここの社長に無断で警察に連絡なんかしたら、末代まで祟られそうだ。  「とりあえず、社長からだな」  着信履歴からガラ置き場の社長に電話を入れようとしたその時だった。 のそっと、その白い影が動いた。 「ひっ……!!」  慌てて携帯電話を落としてしまう。恐ろしくて、失禁寸前の大輝をよそに、その白い影からは暢気な声が聞こえた。 「う~ん……」  手足をしばられているというのに、背中を伸ばす姿はまるで、自宅のベッドでよく寝て、いま起きた人のようだ。  パチパチとまばたきをして周りを見回す。そこで大輝と目が合った。塵と埃まみれだが、開いた瞳は不釣り合いなほど澄んでいて、よくよくみるととてもきれいな顔立ちをしている。年齢も若そうな二十代半ばくらいの男だった。
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