ダンプとカラス

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 次に気がつくと以前のように全裸にされて転がされていた。  今までと違うことはそれがゲストルームのベッドの上に手錠で拘束されていること。無駄だとわかっていても手足をばたつかせ、拘束を解こうともがいているとドアが開いた。 「お前が自分の立場をわかるまで、その拘束は解けないよ」 「んんーっ!」  猿轡もされている為、反論することもできない。御主人様はそろりとベッドの縁から僕に近づいてくる。 「ずっと、お前をあんなところに放してしまった事を後悔していた」 「ふっ……」 「すぐに戻ったのだが、お前の姿はもうそこにはなくて……途方に暮れたよ」  ずっとすべてを委ねていた人なのに、言っていることが全く理解できない。そばに寄られることの恐怖しか感じなかった。  御主人様の手が伸びてきたので、体を捩って抗おうとするが、顔に触れられ、乱暴に猿轡を解かれる。 「……たっ……」  痛みに顔を歪めていると、御主人様の白々しい笑顔が見えた。 「ほら、お腹が空いたろう。ご飯を持って来たよ」  お粥のようなものを口元に持ってこられるが顔をそむけた。蓮華が落ちて、シーツを汚すと頬を張られる。 「いつのまにそんな強情な子になったんだろう」 「名前を返して……僕を解放してください」  一切の食べ物も、飲み物も拒否してただそれだけを訴え続けた。  それから何日か、どれくらいの時間が経ったかわからなくなって、だんだんと考えることも億劫になってきた。御主人様は仕事を終えると僕の様子を伺いに来るが、全く食事を受け付けない様子に項垂れ、そっと部屋を出ていく。  たまに飲み物を無理やり口に入れられるほかは、何も摂取していないので、頭もぼうっとしている。排泄用の白い盥をそばに置かれていたが、今は空で、最後に交換してもらったのがいつなのか思い出せないくらいだった。  ぼんやりとした頭で考えるのは、真島のこと。  ――会いたい。  切実に思っていても、拘束は解けなくてどうしようもない。待っている、と言ってくれた真島の言葉だけを励みに、意識を繋いでいるようなものだった。
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