ダンプとカラス

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 身の危険を感じる。次に御主人様が戻って来たとき、自分が何をされるのか考えると身震いがした。  サイドテーブルに置かれたスポーツ飲料を手に取り、飲み干す。  冷静になれ、と言い聞かせながら周りを見回した。手錠はそれほど頑丈な造りではなさそうだ。これ程までに僕が反抗するとは思っていなかったからだろう。  シェードランプの土台が金属でできているので、手錠をテーブルの上に乗せ、鎖の部分を土台で叩いた。両手が不自由なので四苦八苦しながらも、百回くらい叩きつけると、鎖は外れた。  リビングに向かい、書類などをしまっていそうなところを探す。 「きっと寝室だ」  寝室クローゼットの中にある棚を上から順に開けてみる。予想通りそこに僕が返してもらいたかったものが、まとまって入っていた。ご丁寧に手錠の鍵もあったので、解錠する。  軽くなった手首で早速そこを漁ると、健康保険証、財布、通帳などの他に、僕がここに連れてこられた時の着替え一式が入っていた。  自分で来たときの服は見つけられなかった。  それより一刻も早くそこを出たい。ここにあるのは夏物だが、構っていられない。素早くそれを身に着けてマンションを出た。  転げるようにマンションを出て、バスに乗ると少しだけほっとして余裕が出てきた。  財布の中には数千円。通帳は手が付けられた様子はなかった。  真島のマンションに着くまで、寒さと恐怖で、体の震えはずっと止まらなかった。
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