ダンプとカラス

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 傍からみたらただの教授と生徒の会話だ。だが嫌な汗が吹き出てくる。 「舵を取る人間がいなくて、君はやっていけるのかね」  構内だからか、かろうじてお前、とは呼ばないものの、僕の元御主人様である木谷は不敵な笑みを浮かべている。 「大丈夫です……」 「たったひとりだった肉親を亡くして、何も考えたくない。人の言いなりになっているのが楽だと泣いていたのは、どこの誰だっけ?」 「あの時の僕とは違います」 「そうか……でも、また支配されたくなったらいつでもおいで。その前に……私の方から行ってしまうかもしれないけれど」  僕は鞄の中から黒くてごつい塊を出した。それを木谷の腰にあてる。 「今までの僕とは覚悟が違います。これをいつでも持っています。この間みたいなことをされたら、今度は迷わず警察に通報しますから」  スタンガンや、警察という言葉に、木谷も僕の本気を感じ取ったらしい。一歩下がって引きつった笑みを浮かべた。 「いやだなあ、もうそんなことはしないよ。まあ……せいぜい君も血迷ったらいい」  悔しげな表情を隠しきれずに木谷は離れていった。  あんな強がりを言ったけれど、情けなくも足はガクガクと震えている。でも今の僕には真島がいるから大丈夫だ。
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