それはそれは小さな恋心でした

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『豆腐はマシュマロでできてるんだよ!』といった馬鹿はどこのどいつだったか。 何を隠そう、俺の幼馴染様である。 我が家から三十歩歩けばそこに彼女の家はある。瓦屋根がもの珍しい日本家屋だ。一分もかからずにその御馬鹿様、もとい鈴木に出会える。 鈴木とはかれこれ十五年以上の付き合いになる。小学校の頃から同じクラスで、中学も高校も勿論同じ学校。幼馴染によくある『付き合っている』という勘違いにはよく頭を悩ませたものだ。 いつの間にか仲良くなって、親同士も仲良くなり、それからずっと家を行き来する仲を続けている。出会ったころからアイツの馬鹿っぷりは健在で、その馬鹿に何度も俺は振り回されていた。全くと言っていいほど学習しない女だった。  『わかめはきっと昆布の仲間なんだ!』  『アホ言え、わかめと昆布は別物だっつの』  何度そう指摘しても、スズキはずっとわかめは昆布だと信じて疑わなかったし、周囲の人間に主張してはあきれられていた。多分、今でもその考えは曲がっていない。 思い返せば笑顔しか浮かべない奴だった。 いっつもヘラヘラ、どこでもヘラヘラ。何を言われても何をされても、ただただ「私は大丈夫だよ」といって笑うだけ。 危なっかしく思った俺は、仕方なく鈴木と一緒に行動してやることにした。鈍くさい鈴木が転びそうになったら襟首を引っ張ってやって、苛められてたら相手をボコボコにしてやったし、授業中寝ていたら椅子を蹴って起こしてやったし、勉強も教えてやった。 ただどうにも家庭科だけはすごく苦手だったから、制服のボタンが取れたときは直してもらってたし、共働きで忙しい時は鈴木に夕飯を作ってもらったりしていたし、家庭科の宿題が出たときは手伝ってもらっていた。 持ちつ持たれつ、相手のことを異性とか関係なしに頼れるくらいには、俺たちは腐れ縁だったのだ。
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