それはそれは小さな恋心でした

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 それから、だった。  鈴木は週に一回、金曜日に我が家にやってきては夕飯を作って一緒に食った。  必ず、卵焼きと肉じゃがと味噌汁を。全部俺の好物だった。  卵焼きはふわふわとろとろで、肉じゃがはほくほくでまろやかで頬が落ちそうなくらいうまかったのに、なぜか味噌汁だけは壊滅的に下手だった。  そもそも味噌が多すぎるし、煮すぎて豆腐は若干崩れている。わかめだって完全にやわらかくなっていなくてところどころ固く、ちょっと生臭かったりもした。塩辛くてとても飲めたものではなかった。  しかも料理中はずっと『豆腐はマシュマロ』『わかめは昆布』と主張していて、あきれ返るしかなかった。  でも。  それでも、泣きそうなくらいにうれしかった。  誰かと一緒に食べる飯は十倍美味くて、文句なんて言わずに毎回完食した。  一人で住むには広すぎる家だったけど、あいつが隣にいてくれたからこそ、家族との思い出が詰まったこの家を捨てないで済んだんだ。  嬉しかった。  同時に、申し訳なくも思ったけど。  そんな関係はずっと続いた。  鈴木に彼氏ができても、鈴木が大学に行っても、俺が就職しても。  毎週毎週忘れずに、豆腐は崩れてわかめは固い、塩辛いみそ汁を作りに来た。 あほみたいに、優しい人だった。
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