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駅へと向かう足は、根っこが生えたように動かなくなってて、
このまま日本を離れてもいいものか、判断が付かずにいる。
はあと溜息を吐き、突然襲われた疲労感に、目頭を押さえた。
カツカツと、けたたましくヒールの跳ねる音が目の前を通り過ぎた。
記憶を呼び戻す香りが鼻先を掠め、不意に顔を上げる。
「小栗!!」
走り抜けた女が叫んだ。
「小栗りいい!!」
あちらこちらに顔を向け、髪を振り乱して一心不乱に商店街の中を走っていく。
どんどん小さくなる姿が、突然立ちどまる。
肩で息をしながら、赤く染まる唇に、
まとわりついた髪を、指先でうざったそうに剥がす横顔に、
俺は、茫然としたまま「舞」と彼女の名を呟いた。
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