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数日後の葬式のとき、尚人は事故の相手であるトラックの運転手に初めて会った。
上司に付き添われてやってきた三十歳くらいの男は、久保塚と名乗った。
あんな大事故でありながら、彼のほうは軽傷だけですんだらしい。
骸骨みたいに痩せ細ったその男は、何度も頭を下げながら消えそうな声で謝罪の言葉を述べた。
顔のパーツはどれも小さくて、まるで人骨に薄いゴムの皮を被せて、カッターで目と口の部分に切り込みを入れただけのような、そんな印象の顔だった。
その細い目は、果たして僕を見ているのだろうか。もしかしたら、彼はまだ事故の瞬間の残像を見ているのかもしれない……、尚人はそう思った。
焼香をする久保塚の手は、ぶるぶると震えていた。そしてそのうち全身が震え始めた。
霊安室から出たとき、尚人も怒りに震えていた。事故の相手を殺してやりたいと思った。
それなのに、いざ久保塚に会ってみると、尚人は不思議なほど落ち着いていた。
小夜子は、運が悪かったんだ……
そんな諦めと、妻を失ってしまった喪失感が、怒りの炎を消してしまったのかも知れない。
結局、帰る間際まで頭を下げ続ける久保塚に、尚人は掴みかかるどころか罵声ひとつも浴びせることはなかった。
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